ものが売れなくなった今、人によっては「供給過多」の時代に入っているとも言われており、製造業でも以前より製品を売るのが難しくなったと感じる人は多いのではないでしょうか。
そういうときに、顧客に製品を選んでもらうきっかけとして近年注目されているのが「パーパス」です。
パーパスをうまく伝えられれば企業や製品のブランドイメージを高めて、競合製品との差別化を図れるようになり、自社のものを選んでもらえやすくなります。
今回はこのパーパスがどんなもので、なぜ製造業にとって重要なのかを説明していきます。
製造業のブランディングにおいても重要な「パーパス」
パーパスとは企業がなぜ存在するのか、社会にどのように役立ちたいかといった根本的な使命や理念をまとめたものです。
私たちは普段商品を購入するときに「価格」や「品質」「機能」といった要素を見ながら、どれが一番良いかを決めています。
しかし業界全体の技術革新が落ち着いて各製品の間であまり性能差が見られなくなった場合は、製品や企業のブランドイメージが購入意思に影響することも少なくありません。
企業にとって自社の存在意義であるパーパスを伝えられれば、それに共感した人がブランドを知ってもらったり製品を購入したりするのにつながるのです。
実際に博報堂買物研究所が2022年に発表した統計情報によると、パーパス中心で買うものを決めている人は多くないものの、ブランドへのエンゲージメントが高い傾向にあることがわかっており、リピート率や顧客単価の上昇による効率的で安定的な収益につながる可能性があります。
企業の「パーパス」が購買行動に影響する5つの理由
① 商品を選ぶ際の価値観のひとつとなりやすい
先ほども挙げましたが、複数の製品の中からどれを購入するか決める際、性能や価格などの差があまりなければメーカーのブランドを選ぶ基準にすることも珍しくありません。
品質の高さやサービスの良さといった肯定的なイメージのブランドは選ばれやすいですが、逆に製品などには大きな問題がなくても不祥事やネガティブな噂のある企業は敬遠されてしまいます。
企業のパーパスはいわばそこの「ひととなりの一部」ともいえるものなので、ブランドイメージに大きく結びつき商品購入の意思選択に良い影響を与えます。
特に小さな部品や器具など性能面以外での差別化が難しい製品も多い製造業は、メーカーのパーパスが安定した受注を獲得するための大きなカギといえます。
② 価格面以外で競合製品と差別化を図れる
品質や機能での差別化が難しくなるとメーカー同士による価格競争が発生しますが、収益が減る分安定した品質の維持が難しくなってしまいます。
価格を下げずに差別化を図るためには、逆にブランドそのものの高級感や信頼感を高めてアピールすることが重要といえるでしょう。
企業のパーパスはブランドイメージに「創業者の思い」や「製品が開発された目的」といったストーリー性を与えて、品質やサービスの質を証明する要素となってくれます。
こうしたパーパスを用いたブランディングにより、価格競争による利益縮小のリスクを背負わずに、他社製品との差別化を図れるようになります。
③ メーカーとしての信頼性向上につながる
SNSやネットの普及した現代において、ものごとの世間的なイメージはちょっとしたことで良くも悪くも大きく変わりやすいです。
その中でずっと一貫して同じパーパスを掲げている企業は、いつまでも信念や理念を持ち続けてものづくりに励む良いブランドイメージにつなげられます。
特にものづくりの工程に妥協を許さない姿などをパーパスに反映させることで、安全性や耐久性など製品の質の高さが伝わりやすくなり、ブランドの信頼性も大きく高められます。
たとえ全国的に名前の知られていないような小さなメーカーであっても、パーパスを通して企業の姿勢を伝えられれば、大手の競合他社と十分渡り合える可能性は十分にあります。
④ エシカル購入による充足感を与えれられる
エシカル消費とは社会貢献や環境保護に取り組む企業の商品を積極的に購入して、その企業を支援する行動を指します。
パーパスを掲げることでその企業がどんな取り組みを行っているか具体的に知れ渡るようになり、パーパスに共感した消費者が「エシカル消費」するきっかけを与えられます。
エシカル消費は通常の購買行動にくらべて「より良い選択をした」ことによる消費者の充足感や納得感が高くなりやすいといえます。
そのため一度、エシカル消費をおこなった消費者にはそのブランドへの帰属意識ができやすく、価格などに左右されずに継続的に製品を購入してくれる可能性がでてきます。
⑤ 良いブランドイメージの拡散を狙える
信念や使命が反映された企業のパーパスは、そのままブランドイメージ向上のための広告メッセージとして活用することができます。
パーパスはテレビCMや屋外看板などの宣伝広告に直接掲載するだけでなく、各種資料に載せて投資家たちにCSV投資を呼びかけたり、企業パンフレットに載せて就職活動中の学生たちにアピールしたりする効果が期待できます。
そのため、顧客に向けて掲載したパーパスが思わないかたちでブランドイメージを広めてくれたということもありえるのです。
またパーパスの内容に共感した人がネット上で情報を拡散することで、企業のブランドネームを間接的に広めてもらえる可能性も期待できます。
「パーパス」を実践する上で大事な3つのポイント
① 最低限の品質や機能性が保たれている
どれだけ良いパーパスを掲げていても、そもそもの製品の品質や機能が劣っていると、競合他社のより使い勝手のよいものが選ばれてしまいます。
購入のきっかけとしてパーパスを見るのは製品に一定のクオリティが確保されていることが前提となるため、低クオリティの製品に対してパーパスだけが先行してしまうとかえってその企業に不信感や不誠実さを抱く要因ともなります。
確かな製品技術があるからこそ、パーパスの理念をアピールできるようになるのです。
② なぜ実践するのかを具体的にまとめる
パーパスは単に「聞こえのいいことば」を掲げるのではなく、「〇〇という理由があるから世の中をこう変えたい」「××ということがあったから社会に役立てたい」といった具体的な理由に沿った内容であることが重要です。
ちゃんとした理由が明確に記されていないと、好感度狙いでパーパスを掲げているような軽薄な印象を持たれかねません。
社長や社員などの実際の体験や発言などをもとにパーパスを決めることで、その理念が実際の経営方針や事業への取り組み姿勢などにも影響しやすく、パーパスが会社に根付いた価値観をもとにしていると理解されやすいです。
③ 言葉にするだけでなくきちんと形にする
パーパスは単に言葉にするだけでなく、その言葉をどのように行動や姿勢で示すかによってより強い信頼性につながります。
どんなことを言ったかよりもどんな行動をしたかでパーパスによる印象も変わるため、パーパスの内容は壮大になりすぎず企業として実現できそうな内容になっているかも重要です。
またパーパスに関する取り組みを行った様子は、こちらからきちんと可視化して伝えて顧客に知ってもらう必要があります。
そのためにはWEBサイトや動画チャンネルなどといった、オウンドメディアで継続的に取り組み事例を紹介することが効果的です。
特徴的なパーパスを掲げているメーカー3選
① 山形県の和装メーカーの事例
2026年で創業50年を迎えるこの老舗和装メーカーでは、日本の伝統的な和装文化を後世につなぐことをパーパスとして掲げています。
そのため同社は一丸となって若い手縫い職人の育成に力を入れたり、古い生地をアップサイクルしてサステナブルな素材として活用したりと、世代を超えて和装を受け継ぐための試みを行っています。
また和装によるコートを日本で唯一製造販売するなど、着物の新たなかたちの探索にも取り組んでいます。
② 岡山県の電子機器メーカーの事例
通信・放送・交通関係の設備システムの開発やメンテナンスを中心に行うこのメーカーでは、技術と思いやりで社会を支えることをパーパスとしています。
同社はパーパスにもとづき、血液処理用機器や監視映像用制御システムなど社会的なニーズの高い製品を高い技術力を駆使して次々と開発してきました。
たとえ世間的には見落とされやすいニッチな需要でも、きちんと製品システムとしてこたえることで同社は唯一無二のメーカーとして地位を築いています。
③ 愛知県の産業機械メーカーの事例
日本を代表する工作機械メーカーの一つであるこの会社では、「ものづくりサービスの力で社会に貢献すること」をパーパスとして掲げています。
創業者のよりよい旋盤を開発して世の中に役立てたいという想いがこめられたパーパスであり、今でもAIなどの先端技術を活用して新たな可能性に挑む会社の姿勢に反映されているといえます。
また同社の本社サイトではスペシャルコンテンツがあり、売れ筋商品の開発秘話や次世代のものづくり技術の紹介などパーパスに関連する内容が多数まとめられています。
まとめ:製造業のブランディングにおいても重要な「パーパス」
製造業においてパーパスは競合製品からの差別化をはかり、価格競争に巻き込まれず独自のブランディングをおこなえるメリットがあります。
パーパスによりブランドイメージを高めることで、「同じような製品の中でこの会社のものを使う理由」を顧客に与えてエシカル消費に誘導させることができます。
しかしきちんと顧客のブランドイメージを上げるには製品の最低限のクオリティの確保と、きちんとしたパーパスをしっかりと実践することが大切です。
まずは今の社内で一番こだわっていることや気を付けていることを見直して、パーパスとしてまとめられないか考えてみるのもおすすめです。



