厳しい競争が続く製造業において、単に高品質なものを作るだけでは生き残りも難しくなりました。
どうすれば顧客に選ばれる製品で競合他社との差別化を図れるのでしょうか。その答えの一つに「バリュープロポジションキャンバス」によるマーケティング戦略が挙げられます。
本記事では、製造業においてバリュープロポジションキャンバスを活用したマーケティング戦略の具体的な方法を詳しく解説します。
バリュープロポジションキャンバスがなぜ製造業で重要なのか
バリュープロポジションキャンバスは、顧客と自社製品の間にある「価値」を明確化するためのフレームワークです。
製造業はとかく技術先行になりがちで、素晴らしい技術や設備を持ってもそれが顧客に対してどのような価値を提供できるのか不明確では、その製品は市場で埋もれてしまいやすいです。
バリュープロポジションキャンバスを策定することで、単なる製品の機能やスペックだけでなく顧客のニーズにどう恩恵を与えられるかを可視化できます。
バリュープロポジションキャンバス活用によるメリット
具体的なターゲット像を理解できる
漠然としたターゲットのイメージではなく、ターゲットとなる顧客のニーズや属性をより深く理解して具体的なペルソナ像を共有しやすくなります。
製品開発のパーパスを明確化できる
顧客の課題を把握することで、どんな機能や特徴を持った製品が求められるかが理解しやすくなり、無駄なくニーズにあった製品開発を進められます。
より効果的なマーケティング戦術を立てられる
顧客のニーズが可視化するため、訴求ポイントがはっきり認識しやすくなり製品の価値がより伝わりやすいマーケティング戦略を立てやすくなります。
競合他社との差別化がしやすくなる
自社製品が顧客にどんな独自の価値を提供できるか把握できることで、競合他社と比べてどんな優位性があるか差別化を図りやすくなります。
組織内で商品に対する認識を共有できる
開発、営業、マーケティング、宣伝広報など部署間で自社製品が顧客に与えられる価値に関して認知を共有することで、作業の連携がスムーズになります。
バリュープロポジションキャンバスを構成するおもな要素

「顧客セグメント」を構成する3つのおもな要素
顧客セグメントは、ターゲットとなる顧客を深く理解するための要素です。
要素1:「顧客のジョブ」
顧客が達成したいことや解決したい課題、満たしたい欲求などを指しています。
機能性ジョブ、環境性ジョブ、感情性ジョブなど様々な種類に分けられ、製造業においては「生産ラインの稼働率を上げたい」「新しい素材に対応した技術を導入したい」といったものが挙げられます。
要素2:「顧客のペイン」
顧客がジョブを達成するうえで感じることの多い不満やリスク、コストといった障壁を指します。
製造業が抱えるペインとして「設備が老朽化してしまい、予期せぬ故障やトラブルが発生しやすい」、「既存の加工方法では完成品の精度をこれ以上高められない」といったことが挙げられます。
要素3:「顧客のゲイン」
顧客がジョブを達成することで得られる効果やメリット、達成感などを指しています。
製造業に関しては「生産ラインの生産性が安定して稼働できるようになった」「環境に配慮した工場を持つ企業としてブランドのイメージが向上する」といったことがゲインとして挙げられます。
「価値提案」を構成する3つのおもな要素
価値提案は、自社製品が顧客にどんな価値を提供できるか明確にするための要素です。
要素1:「製品とサービス」
顧客のジョブをサポートするために提供できる自社の製品やサービスを指します。
製造業での例としては「IoTを駆使して生産ラインを効率化するシステム」や「新しい素材の加工についての共同開発サービス」といったものが挙げられます。
要素2:「ペインの解消」
顧客が抱えているペインを、自社の製品やサービスがどのように軽減、解消してくれるかをまとめたものです。
「自動調整機能により、生産ラインの品質安定化をはかれる」「AIによる検知機能で故障が起こりそうな状態を未然に知らせてくれる」というように顧客の課題をどのように解決するのかを明確にまとめます。
要素3:「ゲインの創出」
自社の製品やサービスによって、顧客が求めるゲインをどのように創出するのかを具体的にまとめた要素です。
「生産ラインのプロセスを効率化することで、稼働効率を〇〇%高められる」「新素材の加工技術により高付加価値市場への参入ができるようになる」というように顧客のメリットをどう実現できるのか具体的にまとめましょう。
バリュープロポジションキャンバスの活用ステップ
ステップ1:ターゲットの明確化と仮説立案
まずどの顧客セグメントをターゲットにするか、業界や企業規模などをもとに具体的に設定していきます。
そしてそのターゲットに関する「ジョブ」「ペイン」「ゲイン」がどういうものか、自由にアイディアを出し合いながら仮説を立てます。
顧客セグメントをより具体的にイメージしやすくするため、詳細なペルソナ像を設定するのもおすすめです。
ステップ2:顧客セグメントの深堀り作業
仮説を立てた「ジョブ」「ペイン」「ゲイン」が本当の顧客のものと合致しているか、実際の顧客とのコミュニケーションを通じて確認します。
営業やカスタマーサポートなど顧客と直接接点をとれる部門とも連携して、顧客情報を深堀りしていきます。
また製造業においては、現場担当者や経営層など異なる立場の人々から話を聞いてみることで、多角的な視点からの情報が得られます。
ヒアリングを通じて得られた情報をもとに、顧客セグメントの内容を埋めていきます。
ステップ3:自社製品の提案価値の具体化
顧客セグメントが明確になったら、次に自社の製品やサービスがどんな価値を提供できるかまとめていきます。
その際、競合他社の製品やサービスと比較しながら自社の独自性や強みを分析することが重要です。
- 製品とサービス:自社の製品やサービス、技術的な強みなどをできる限り全て洗い出します。
- ペインの解消:製品やサービスのどの機能が、顧客のどのペインをどういう風に解消できるか具体的に記述します。単なる機能説明ではなく、「この機能がこの問題を解決できる」とペインにつなげてまとめましょう。
- ゲインの創出:製品やサービスにより、顧客のどのゲインをどう創出しているか明確化していきます。「この機能によりペインを〇〇%削減して、生産ラインの安定化をはかれる」とここもゲインを意識して具体的に考えることが重要です。
ステップ4:フィットの確認
顧客セグメントと価値提案が埋まったら、両者が現状でどれぐらいフィットしているか確認します。
自社の製品やサービスが、顧客の「ジョブのサポート」、「ペインの解消」、「ゲインの創出」にどれだけ役立っているかを把握しておきましょう。
もしフィットしていない部分があれば、顧客セグメントか価値提案のどちらかを調整する必要があります。
例えば顧客のペインに対して自社製品の解決策が十分でない場合は製品機能やアフターサービスの改善が、自社製品の強みが顧客のゲインに合致しない場合はターゲット像の見直しの検討が必要かもしれません。
このフィットを見つけるプロセスが差別化の核となります。
競合他社がまだ解決できていないペインや提供できていないゲインに対するフィットがあれば、強い差別化の要となるでしょう。
また現状で他社製品が「ジョブ」「ペイン」「ゲイン」に対応しているか分析すると、より自社の差別化できる強みを明確にしやすくなります。
ステップ5:ゲインを意識したメッセージ作成
フィットポイントが確認できたら、顧客の「ジョブ」「ペイン」「ゲイン」のどれに焦点をあてて最も強く訴求すべきか決定します。
すべての要素をまとめて伝えようとすると、メッセージがぼやけてしまうため、最も顧客に響きやすく差別化が図りやすいものに絞るのがおすすめです。
そしてその核となる価値提案を伝えるためのメッセージを策定して、営業のセールストークや自社サイトの製品ページなどに活用していきます。
製造業のバリュープロポジションキャンバス活用の3つのポイント
ポイント①:部門間で連携して取り組む
バリュープロポジションの構築は営業やマーケティング、経営など多様な部署・部門の方々と連携して進めることで、より多角的な視点や幅広い意見が得られるため、より精度の高いバリュープロポジションを実現しやすくなります。
ポイント②:既存製品も価値提案の対象に入れる
バリュープロポジションキャンバスは新規開発している製品だけでなく、すでに展開している製品のテコ入れなどにも活用できます。
例えば長期間製品を愛用してくれている顧客のフィードバックを再確認することで、新たな価値提案の発見にむすびつくこともあります。
ポイント③:定期的にキャンバスを見直す
バリュープロポジションキャンバスは一度設定したら、そこで終わりではありません。
顧客のライフスタイルや流行、景気などの変化にあわせて、定期的にキャンバスの内容を見直しながら改善していくことが重要です。
常に細かく試しながら臨機応変に改善していく意識を持ちましょう。
バリュープロポジションキャンバスで顧客が頼れる企業に
製造業者が持続的に生き残っていくには、「ものづくり」から「価値づくり」へ転換することが重要です。
バリュープロポジションキャンバスは、顧客のニーズをとらえた製品開発・市場展開による「価値づくり」を実現するための強力なツールです。
顧客の視点に立って「ジョブ」「ペイン」「ゲイン」を深く理解して、自社製品がペインの解消やゲインの創出にどう貢献できるか明確にすることで、他社との差別化を図り顧客に選ばれる製品の実現につながります。
本記事を参考にバリューポジションキャンバスを活用して、顧客に愛顧される製造業者となるためのマーケティング戦略をぜひ策定してみてください。