印刷会社でマーケティング業務を担当しており、年に2〜3回展示会出展を担当している新米マーケターです。
数あるマーケティング施策の中でも、展示会は一度に大量の潜在顧客と直接対話をすることができる貴重な機会ですが、その準備には多大な労力と時間、そして専門的な知見が求められます。
展示会を担当する際に、何度も「これが必要だった!」「会期に間に合わない!」「手配が遅れてしまった!」といった失敗をいくつも経験してきました。
本記事は、それらの失敗原因を徹底的に分析し、私の実体験から得た教訓を基にした、貴社の展示会を成功に導くための具体的な「準備スケジュール」と「タスク別チェックリスト」です。
- 初めて展示会・イベントの設営担当になった方
- 企画~設営の段取りに不安がある、または過去に失敗経験がある方
- 抜け漏れなく準備を進め、イベントを成功させたいと考えている担当者
におすすめの内容をお届けします。
展示会準備の全体像:なぜ準備は「1年前」から始めるべきなのか
展示会準備は、1年前から始めることが理想的です。十分な時間を持って準備を進めることで、全体的なクオリティを高め、当日までのトラブルを防ぐことができます。
展示会に出展する目的を明確にし、参加する目的に応じた準備を行うことが大切です。
1年前から準備をはじめることで、以下のメリットがあります。
優良な小間(ブース位置)の確保
東京ビッグサイトや幕張メッセなどで開催される大規模な専門展では、角小間やメイン通路沿いの小間は、開催の1年前、あるいはそれ以上前には埋まってしまいます。
出展ブース位置は、集客と商談の成功に大きく影響するため、非常に重要です。
「早期割引」の活用によるコスト最適化
事務局への各種申し込みや備品レンタルには、「早期割引」制度が用意されている場合が多く、計画的に前倒しで動くことは、コスト管理の観点からも極めて重要です。
コンセプトとデザインの熟成
来場者の心に深く刺さるコンセプトや、それを体現する質の高いブースデザインを目指すには、長期的な準備が必要です。
パートナーとなるデザイン会社や施工業者と議論を重ね、熟成させるには最低でも半年以上の期間が望ましいでしょう。
私自身、展示会準備を急いでしまった結果、準備段階で多くの不備が生じ、後悔したことがあります。
展示会準備は計画的に余裕を持って行うことが、スムーズな展示会運営のための第一歩です。
以下に、理想的な年間スケジュールのタイムラインを示します。
また、最後にはフェーズごとの段取りチェックリストも掲載しますので是非ご活用ください。
1年前〜9ヶ月前の段取り|戦略・企画フェーズ
主に出展内容の決定と基本的な手配を行う時期です。この段階は、プロジェクトの羅針盤を定める最も重要な期間です。ここでの決定が、この先の1年間の全ての活動の方向性を決定づけます。
出展目的と展示内容の確定
展示会準備において最も重要なのは、出展目的を明確にすることです。私は過去に、展示会の目的が曖昧だったため、展示物が来場者の目を引かず全く足を止めてもらえなかった経験があります。
例えば、商品を販売する目的なのか、ブランドの認知を高める目的なのかによって、展示方法やスタッフの対応は異なります。
また、展示会出展目的を具体的な数値目標(KGI/KPI)に落とし込むことも重要です。
出展する展示会の選定と評価
主要な業界展示会をリストアップし、来場者層、出展企業数、過去の開催実績、そして自社のターゲット顧客との親和性を客観的に評価します。
主催者が公表している「開催報告書」は、来場者の業種や役職などが分かり、貴重な判断材料となります。
出展の意思決定がなされたら、速やかに事務局へ出展申し込みを行います。この段階で小間の位置を確定させることが、最初の重要なミッションです。
機械メーカーなどは特に、小間サイズと自社製品のサイズを事前にしっかり確認するようにしましょう。
予算計画の立案
予算の確保は非常に重要です。過去に、魅力的なブースプランを先行して作成したものの、後から予算が大幅に不足していることが判明し、計画を全面的に見直さざるを得ない事態に陥りました。関係各所に多大な迷惑をかけた苦い経験です。
会場費、設営費、出展物制作費だけではなく、交通費、宿泊費、販促物制作費などさまざまな費用が発生します。
想定される全ての費用を概算で洗い出し、余裕を持たせた予算案を作成し、早期に承認を得ることが不可欠です。
8ヶ月前〜6ヶ月前の段取り|コンセプト・パートナー選定フェーズ
戦略の方向性が定まったら、それを具現化するためのコンセプトを練り上げ、共にプロジェクトを推進するパートナー(業者)を選定します。
コンセプトとコアメッセージの策定
「誰に、何を伝え、どう行動してほしいのか」を定義します。
以前、私は準備期間が短かったこともあり、コンセプトとコアメッセージの策定を疎かに進めた結果、ブースデザインや配りもの、営業のトークスクリプトなど他部門が関わるフェーズでバラバラの提案が集まり、まとめることに苦労した苦い経験があります。
この経験から学んだのは、「コンセプト」と「コアメッセージ」を言語化し、様々な部門、役職の方と共有することですべての施策が一貫性をもって進行できるようになるということです。
パートナー企業(施工・デザイン会社)の選定
展示会ブースのデザインは、来場者の関心を引くために重要なポイントです。
パートナー選定の際には、プロジェクトの目的、コンセプト、KPI、予算、スケジュールをまとめたオリエンテーション資料の作成と、過去の実績や評判を基に候補企業のリストアップを行いましょう。
5ヶ月前~3ヶ月前の段取り|制作・手配フェーズ
いよいよ計画を「かたち」にしていく段階です。外部との連携が本格化し、緻密なプロジェクト管理能力が問われます。
展示会のブースや配布物はデザインが出来てからも印刷や加工などに意外と時間がかかるため、まだまだ時間があると思っても前倒しでスタートしましょう。
ブースデザインの確定
選定したパートナー企業と連携し、ブースの最終デザイン(平面図、立面図、パース図)を確定させます。
同時に、ブース内で使用する映像コンテンツの作成、デモ環境の構築、パネルに掲載する原稿作成に着手します。
来場者の足を止めるには、動きのある映像コンテンツやVRやデモなどのインタラクティブコンテンツが非常に有効です。
配布ツールの作成
展示会で配布するパンフレットやリーフレット、ノベルティを準備します。これらを早めにデザインして印刷を依頼し、準備を進めます。
特に、印刷物やノベルティに関しては納期を逆算して早めに発注することが大切です。
特に大型連休や年末年始を挟む場合には、想定外に製造に時間がかかってしまう場合があるので要注意です。
事前集客・広報戦略の立案
「誰に」「何を」伝えるかが決まったら、そのターゲットに来てもらうための具体的な施策を計画します。
(例:メルマガでの告知、プレスリリース、Web広告、営業担当者による既存顧客への声がけ、SNSキャンペーンなど)
2ヶ月前~会期直前の段取り|最終調整・確認フェーズ
展示会の準備が最終段階に入るこの時期には、展示会スケジュールに基づいて詳細な調整を行います。
営業部門などの他部門とも密接に連携し、抜け漏れがないか徹底しましょう。
運営マニュアルの作成とスタッフ研修の実施
当日のスタッフの接客品質を平準化できるよう、マニュアルを作成します。
目的の再確認から、タイムスケジュール、役割分担、接客フロー、想定問答集まで、誰が読んでも理解できる内容を目指します。
印刷物の入稿・校正・納品管理
展示に必要な資材がすべて揃っているか、搬入日程や会場担当者との打ち合わせを行います。
資材の不備や遅れがないように確認し、万全の準備を整えます。
印刷会社勤務としては大変恥ずかしい話ですが、私は会期直前に1種類冊子の手配が漏れていたことがあります。
肝が冷える思いでしたが、コストはかかりますが納期の短いデジタル印刷を活用して何とか会期に間に合わせることができました。
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搬入・搬出計画と最終確認
会期中のことに目が行きがちで、ついつい搬入・搬出計画はおざなりになりがちです。
会場に持ち込む全ての物品をリスト化した「搬入物リスト」を作成し、運送業者や車両を手配しましょう。
搬入・搬出日時、車両の待機場所、搬入経路など、展示会事務局が定めるルールを確認し、関係者全員で共有します。
展示会で獲得したリードへの対応検討
獲得した名刺(リード)には、展示会終了後に即アクションを起こすため、事前準備が不可欠です。
リードの質を見極めるランク分けの方法は接客担当者間で事前によく確認しておきます。
また、お礼メールやランクに応じたアプローチに関しても事前に準備しておきましょう。
展示会当日~終了後の段取り|さらなる成功に繋げるための最終フェーズ
展示会当日は、事前に作成したシフトやスケジュールに従って進行していきます。
しかし、思ったよりお客さんの入りが悪い、チラシやノベルティが捌けないといった際には、声掛けや人員配置を柔軟に変更してその場でPDCAをまわしていきましょう。
展示会終了後のフォローアップと反省会
展示会終了後は、参加者への速やかなフォローアップを実践しつつ、参加者や来場者からのフィードバックを収集し、次回の展示会に向けた改善点を見つけます。
また、フォローアップ活動から生まれた商談や受注額を追跡し、最終的な投資対効果(ROI)を測定します。基本的な計算式は以下の通りです。
ROI (%) = (展示会経由の売上総利益 – 投資総額) ÷ 投資総額 × 100
この数値を分析し、次回の展示会準備における予算策定やKPI設定の重要なフィードバック情報とします。
失敗談から生まれた展示会準備の段取りチェックリスト
本記事で解説した内容を、時系列で実践できるチェックリストとしてまとめました。印刷してご活用いただくなど、貴社の展示会準備にお役立てください。
1年前〜9ヶ月前|戦略・企画フェーズ
- 出展目的を明確にし、目的に応じた展示内容を確定する
- 出展候補となる展示会をリストアップし、来場者層などを「開催報告書」で確認する
- 出展する展示会を正式に決定し、事務局へ申し込む
- 予算計画を立案し、社内での承認を得る
- 出展目的に沿ったKGI/KPIの設定
8ヶ月前〜6ヶ月前|コンセプト・パートナー選定フェーズ
- 展示会のターゲット(誰に)、提供価値(何を)、期待する行動(どうしてほしいか)を定義する
- ブースの「コンセプト」と「コアメッセージ」を言語化する
- 言語化したコンセプトとメッセージを、関連部署や役職者と共有する
- パートナー企業選定のためのオリエンテーション資料(目的、コンセプト、予算、スケジュール等を記載)を作成する
- 実績や評判を基に、パートナー(施工・デザイン会社)を選定する
5ヶ月前~3ヶ月前|制作・手配フェーズ
- パートナー企業と連携し、ブースの最終デザイン(平面図、立面図、パース図)を確定させる
- ブース内で使用する映像コンテンツやパネル原稿の作成に着手する
- 製品デモを行う場合は、その環境構築に着手する
- 配布用のパンフレットやリーフレット、ノベルティグッズのデザイン・制作を進める
- 事前集客・広報戦略の立案
2ヶ月前~会期直前|最終調整・確認フェーズ
- 運営マニュアル(タイムスケジュール、役割分担、接客フロー、想定問答集など)を作成する
- 当日スタッフへの研修を実施し、接客品質の平準化を図る
- 印刷物の入稿・校正・納品管理を行う
- 会場に持ち込む全ての物品をリスト化した「搬入物リスト」を作成する
- 搬入・搬出のための運送業者や車両を手配する
- 搬入・搬出の日時、経路など、事務局が定めるルールを確認し、関係者で共有する
- 獲得したリードへのフォローアップ内容を事前に準備する
展示会当日~終了後|さらなる成功に繋げるための最終フェーズ
- 終了後は、獲得したリードへ速やかにフォローアップを行う
- 参加者や来場者からのフィードバックを収集する
- フォローアップ活動から生まれた商談や受注額を追跡する
- 投資対効果(ROI)を測定・分析する
- 次回の展示会に向けた改善点を見つけるための反省会を実施する
まとめ:計画的な準備こそが、展示会の成果を最大化する鍵
1年前から始める長期的な視点での展示会準備について、私の経験に基づいて具体的なスケジュールとチェックリストをご紹介させていただきました。
本記事が、貴社の展示会プロジェクトを成功に導く一助となり、素晴らしいビジネスチャンスの創出に貢献できましたら幸いです。