「高齢者にやさしい情報デザイン」と聞かれて、皆さんはどのようなものを連想するでしょうか。
街で見かける点字ブロックやノンステップバスなどバリアフリーに関するものを思いついた方が多いと思いますが、実はチラシや看板やWEBページなどにも「高齢者にやさしい情報デザイン」というものが存在します。
この記事ではシニア世代、つまり高齢者の方にも見やすい情報デザインとはどのようなものか5つのポイントから見てみようと思います。
「高齢者のための情報デザイン」が求められる背景
そもそも「高齢者のための情報デザイン」は高齢者の方が情報を誤解・見落とししにくいように改良されたデザインのことです。
人間は50歳を境に高齢になるにつれて情報判断の能力が衰えやすくなるといわれており、情報の誤認により人身や財産に大きな損害が生じることも考えられます。[注1]
また色の見え方も加齢によって水晶体が黄色く濁ってしまうことなどから変化していき、若い頃は見やすい色であってもだんだん年を取るにつれて見にくい色となっていきます。
バリアフリーが身体能力が低下した高齢者の身の安全を保護するように、「高齢者のための情報デザイン」は瞬時での情報認識が不得意な高齢者を守るためのものなのです。
「高齢者のための情報デザイン」の5つのポイント
「高齢者のための情報デザイン」に関する5つのポイントを見てみましょう。
①:「複数メディアの使い分け」
新聞やテレビなど従来のメディアは、インターネットよりも信頼性が高いものとして信頼できる情報源としてシニア世代の間で根強い評価を得ています。
その一方でシニア世代の間でスマホが急速に普及しており、2020年時点ではシニア世代でのスマホの普及率が80%を超える結果に。[注2]
若者のようにスマホをネット閲覧や動画視聴などで駆使する高齢者も増えているため、デジタル上でのシニアマーケティングの規模は今後大きく拡大するかもしれません。
その結果、コロナ禍で他人との交流が減った分、シニア世代が新聞などの紙媒体に触れる時間とスマホに触れる時間の両方が伸びてきているといわれています。
全国に広く伝えるにはテレビやラジオ、信頼できる情報源としては新聞などの紙媒体、流行などに敏感なシニア世代の方にはスマホというように、メディアの使い分けが必要な時代になったというわけです。
②:「シニア世代の増加と多様化」
この記事での「シニア世代」というワードは65歳以上の方をさしているため、65歳の人も90歳の人も「シニア世代」とくくられます。
しかし両者の年齢差は25歳もあるので、趣味や行動パターンなどが異なっていてもまったく不思議ではないですよね。
また「シニア世代」の人口そのものも少子高齢化で増えてきており、現在、日本国内での65歳以上の人口は3,000万人を超えているといわれています。[注3]
これはオーストラリアや台湾の総人口よりも多い数字で、日本人のおよそ3割がシニア世代になる計算となります。
そのためシニア世代に優しい情報デザインは、どの年代のどんなペルソナの「高齢者」をターゲットにしているか前もって具体的に考えることが重要そうですね。
③:「誌面上における情報量の多さ」
(一社)ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)の「見やすいデザイン」では、印刷物や画面上に表示される「情報量」が19%を超えると読みにくさからユーザーがストレスを感じやすくなるとされています。[注4]
例えば下記左図は情報量が22.2%で右図は12.2%です。
10%違うと見た目の印象が大きく変わりますよね。
※ クリックすると拡大した画像が表示されます。
誌面・画面上の情報量が適切かどうか測定するには、UCDAの「DRC(Dot Ratio Counter)」というアプリケーションを活用することがおすすめです。
一度に視覚に映る情報量を少なく調節し、どうしても伝えるべき情報が多くなってしまう場合は、画像や図形を効果的に活用する、あるいは印刷物の場合はページを増やしたりWEB画面の場合はページ幅を広げたりして、ゆったり文字を配置するのがおすすめです。
④:「見やすいテキストデザイン」
高齢になると視力が衰えやすくなるため、「シニア世代のための情報デザイン」は文字そのものの見やすさも重要です。
文字の大きさや文章の間隔などは、以下の基準を目安にしてみましょう。
- 文字の大きさは通常よりも1.5倍ほど大きくする
- 1行あたりの文字数は45字以内にする
- 行と行の間は1.5行ほどの間隔を入れる
- 字が潰れない程度の太さのあるフォントを使う(ゴシック体が理想的)
- 文字の修飾は可読性が失われないよう最低限におさえる
遠くからでもはっきり認識しやすい情報デザインにすることで、シニア世代だけでなく誰もが見やすい文章になりますよ。
⑤:「高齢者でも見やすい色彩設計」
高齢になると視力とともに色覚も低下しやすくなり、見やすい色の幅が変わってきます。
これは目の中にある水晶体が紫外線などから眼球を守ることで色のついたガラスのように濁りはじめ、色覚の劣化へとつながるためで、80代以上はほぼ発症するといわれている白内障を患うと物事の見え方が以下のように変化してしまいます。
19世紀のフランスの画家、モネは晩年に白内障を患っており当時の作品は若いときのものに比べて全体的な色彩が黄色がかってしまっているといわれています。
このように色覚が劣化した状態でも的確に文章が認知できるよう、誰にでも見やすい色を優先的に使う、背景と文字のコントラスト比を60%以上に保つなどといった工夫が必要です。
また見やすい色をただ使うだけでなく、複数の色をうまく組み合わせて赤・緑・青・白といったはっきりとした色でメリハリをつけるといったより情報を視認しやすくする工夫も効果的です。
若者向けの商品と高齢者向けの商品のパッケージを思い返してみると、後者のほうが色のコントラストがはっきりしていて単純により見やすい色彩でデザインされている気がしませんか。
ちなみに複数の色のコントラスト比はネット上で手軽に調べられます。
シニア向け情報デザインは「UCD」を意識しよう
UCDは「ユニバーサルコミュニケーションデザイン」という言葉の略で、誰もが容易に情報にアクセスできるよう科学的なメソッドに基づいて設計された情報デザインです。
保険商品のパンフレットや食品のパッケージなど利用者が誤解することで健康的・金銭的な損害が生じるリスクのある情報デザインをUCDの観点から審査、改善していきます。
UCDの詳細については関連記事も見てくださいね!
「高齢者が見やすい」には「誰でも見やすい」が重要
少子高齢化により増加の一途をたどっているシニア世代にとって、新聞やテレビだけでなくインターネットも情報を取得するツールとして活用されてきています。
しかし視力や色彩感覚、瞬発的な読解判断スキルが低下しやすい高齢者には、誤認を生ませない分かりやすい情報デザインが必要不可欠です。
UCDの観点から情報デザインを科学的に改善することで、シニア世代のみならず誰もが情報が認知しやすいユーザーフレンドリーなデザインを実現させることができます。
もしシニア世代の方に向けたマーケティングをお考えなら、まずは自分にとって伝わりやすい情報デザインを考えてみるのが得策ではないでしょうか。
・関連資料のリンク
[注1] 認知症ネット:認知機能は50歳を境に低下~認知機能チェック受検者1万人突破~
[注2] 株式会社ハルメクホールディングス:「デジタルデバイスに関する意識と実態調査」
[注3] 総務省統計局:統計トピックスNo.129 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-1.高齢者の人
[注4] 「見やすいデザイン」の認証基準 | UCDA認証
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【ストリーミング動画】ユニバーサルコミュニケーションデザインと高齢者のための情報デザイン 高齢者や多様な色覚者にも伝わりやすい情報デザインのための手法 ユニバーサルコミュニケーションデザインについて解説します。 |