スマホの普及が後押しをしたことで顧客との紙の帳票による手続きは減少し、オンライン化によるペーパーレスの実現は確実に進展しているように見えます。
行政も電子帳簿保存法などの整備を通じてペーパーレス化が推進されているため、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組みやすい環境が整ってきたように感じます。
しかし、旧態依然として紙による手続きも残っており、オンラインと紙の両方の仕組みを管理しなければならず、ペーペーレス化の恩恵を最大限で受けられていない企業も見受けられます。
なぜこれほどまでにペーパーレス化が叫ばれる現代において、依然として紙の帳票による手続きが残されているのでしょうか。
本記事では、ペーパーレス化が進まない障壁となっている要因を探り、それらのDX推進の障壁を解決するための具体的な方法を紹介いたします。
ペーパーレス化が進まない6つの障壁:なぜ紙の手続きが残るのか
企業がオンライン化によるペーパーレスの実現をしたいと考える一方で、いまだに紙の帳票による手続きが残る背景には、複数の複雑な要因が絡み合っています。
1 コストと投資の問題
DX推進には初期投資が不可欠です。既存のシステムを刷新したり、新しいシステムを導入したりするには、多額の費用がかかります。
特に中小企業にとっては、これらの投資が大きな負担となり、オンライン化への一歩を踏み出せない大きな要因となります。
また、システムの導入だけでなく、従業員への教育や、新たな運用体制の構築にもコストがかかります。
短期的なコスト増を嫌い、現状維持を選ぶ企業も少なくありません。
2 セキュリティへの懸念
オンラインでの手続きは、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクと常に隣り合わせです。
特に個人情報や機密情報を取り扱う手続きにおいては、企業も消費者もセキュリティに対する強い懸念を抱いています。
既存の紙ベースの手続きが、物理的な管理によってある程度の安心感を提供していると感じる場合もあり、オンライン化によるセキュリティリスクの増大を懸念し、導入に踏み切れないケースが見られます。
厳格なセキュリティ対策を講じるにはさらなるコストがかかるため、二の足を踏む要因にもなります。
3 デジタルデバイドとリテラシーの問題
全ての消費者がデジタル機器やインターネットを使いこなせるわけではありません。
高齢者層や、デジタルデバイスに不慣れな層にとっては、オンラインでの手続きはむしろ煩雑でハードルが高いと感じられることがあります。
企業側も、一部の顧客層を切り捨てる形でオンライン化を進めることには躊躇があり、結果として紙での手続きを残す選択をせざるを得ない場合があります。
また、企業内の従業員においても、デジタルリテラシーの格差が存在し、新しいシステムへの順応に時間がかかったり、使いこなせない従業員がいることで業務効率が低下する可能性を懸念する声もあります。
4 法的・規制上の制約
一部の手続きにおいては、法律や規制によって紙での提出が義務付けられている場合があります。
例えば、特定の契約書や公的な申請書類などは、署名や押印の物理的な存在が法的に求められることがあります。
電子署名や電子契約の普及は進んでいますが、全ての法的要件がデジタル化に対応しているわけではなく、依然として紙での手続きが不可欠なケースが存在します。
5 慣習と文化、抵抗勢力
長年にわたって慣れ親しんだ紙での手続きに対する慣習や文化的な側面も無視できません。
特に変化を嫌う保守的な組織においては、DX推進が既存の業務フローや組織体制の変更を伴うため、抵抗勢力が生じやすい傾向があります。
従業員が新しいシステムへの移行に不安を感じたり、学習コストを嫌がったりすることで、オンライン化が遅々として進まない原因となることがあります。
6 システム連携とデータ統合の複雑さ
企業内には、顧客管理システム、会計システム、販売管理システムなど、様々な既存システムが存在します。
オンライン化を進める際には、これらのシステム間の連携やデータ統合が必須となりますが、これが非常に複雑で困難な場合があります。
レガシーシステムが乱立している企業においては、新たなシステムとの連携が難しく、データの一貫性や整合性を保つことが難しいという課題に直面します。
結果として、部分的なオンライン化にとどまったり、手作業でのデータ入力が残ったりする原因となります。
あえて「紙」を残す選択肢も。DXが最適とは限らない5つのケース
全ての企業活動を無理にペーパーレス化することが常に最善とは限りません。
以下のようなジャンルの手続きにおいては、従来の紙での手続きを残しておくことにも一定の合理性があると考えられます。
1 高齢者層やデジタル弱者を主要顧客とするサービス
医療機関、介護サービス、一部の公共サービスなど、主要顧客層に高齢者が多い場合、オンライン手続きの導入はかえって顧客の利便性を損なう可能性があります。
対面での説明や、手書きでの手続きが安心感を与える場合も多く、無理なオンライン化は顧客離れにつながるリスクがあります。
2 非常に個人的な情報やデリケートな内容を含む手続き
例えば、遺産相続、離婚協議、精神的なカウンセリングなど、極めて個人的でデリケートな内容を含む手続きにおいては、対面でのコミュニケーションや、紙媒体での情報共有が、顧客の感情的な安心感を高める場合があります。
デジタル上でのやり取りでは伝わりにくいニュアンスや、直接的な心のケアが必要な場面では、紙ベースの記録や対面での説明が依然として求められます。
3 物理的な証拠や現物確認が必要な手続き
不動産の売買契約、美術品の売買、高額な商品の受け渡しなど、物理的な現物確認や、書面による物理的な証拠が不可欠な手続きにおいては、紙での契約書や受領書が引き続き重要です。
電子署名や電子証明書も普及していますが、物理的な押印や署名が持つ重みや信頼性が重視される場面も依然として存在します。
4 災害時や緊急時の手続き
大規模な災害発生時など、通信インフラが寸断された場合でも業務を継続できるよう、紙での運用を残しておくべきです。
ライフラインに関わる緊急手続きや、被災者支援の申請など、デジタルインフラに依存しない代替手段は、非常時の事業継続計画(BCP)において極めて重要です。
5 伝統的な文化や儀式に根ざした手続き
日本の印鑑文化や、特定の伝統的な行事における書類作成など、文化的な背景や慣習に深く根ざした手続きにおいては、無理にデジタル化を進めることが受け入れられない場合があります。
形式的な意味合いや、儀式としての側面が強い場合は、紙での手続きを残すことで、文化的な価値を尊重することができます。
DX推進の障壁を解決するための方法
オンライン化の障壁を乗り越え、DXを効果的に推進するためには、多角的なアプローチが必要です。
1 スモールスタートと段階的導入
全ての業務を一気にオンライン化しようとせず、まずは効果が出やすい部分からスモールスタートでDXを進めていき、段階的に拡大していくことが重要です。
成功事例を積み重ねることで、社内の理解と協力を得やすくなり、投資対効果も見えやすくなります。
例えば、まずは申請書の提出のみをオンライン化し、その後、承認プロセスやデータ連携へと広げていく、といった方法が考えられます。
2 セキュリティ対策への積極的な投資と情報開示
オンライン化における最大の懸念であるセキュリティに対しては、最新の技術を導入し、強固な対策を講じる必要があります。
多要素認証、暗号化、定期的な脆弱性診断などを徹底し、その取り組みを積極的に顧客や従業員に開示することで、安心感を与えることができます。
ISO27001などの国際的なセキュリティ認証を取得することも有効です。
3 デジタルリテラシー向上のための教育とサポート
従業員および顧客のデジタルリテラシー向上のためには、教育プログラムやサポート体制を整備することが不可欠です。
従業員に対しては、新しいシステムの操作方法に関する研修を定期的に実施し、疑問点を解消できるヘルプデスクを設置するなど、きめ細やかなサポートを提供します。
顧客に対しては、使いやすいインターフェースの設計に加え、電話やチャットでのサポート、操作マニュアルの提供など、デジタル弱者にも配慮した支援が必要です。
4 法的・規制緩和への働きかけと対応
政府や関連団体に対して、オンライン手続きを妨げる法的・規制上の制約の見直しを積極的に働きかけることも重要です。
同時に、現行の法制度に則った形で、電子署名や電子契約などの法的要件を満たすソリューションを導入し、法的リスクを最小限に抑える必要があります。
5 チェンジマネジメントの徹底と組織文化の変革
DX推進は単なるIT導入ではなく、組織文化の変革を伴います。
経営層が強いリーダーシップを発揮し、DXの必要性やビジョンを明確に共有することで、従業員の意識改革を促します。
DXに否定的な方に対しては、DXのメリットを具体的に示し、個々の業務における負担軽減や効率化をアピールするなど、丁寧な対話と理解促進に努めることが重要です。
DX推進担当者を設置し、全社的な取り組みとして推進する体制を構築することも有効です。
6 ユーザーエクスペリエンス(UX)の最適化
オンライン手続きが普及しない最大の理由の一つは、その使いにくさにあります。
顧客が直感的に操作でき、ストレスなく手続きを完了できるようなUI/UXデザインを徹底することが重要です。
シンプルな入力フォーム、明確なナビゲーション、エラーメッセージの分かりやすさなど、顧客目線に立った設計が求められます。
定期的にユーザーテストを行い、フィードバックを反映させることで、継続的な改善を図ります。
7 既存システムとの連携強化とAPIエコノミーの活用
複雑な既存システムとの連携を容易にするために、API(Application Programming Interface)を活用し、システム間のデータ連携を自動化・標準化を進めます。
これにより、手作業によるデータ入力や重複作業をなくし、業務効率を大幅に向上させることができます。
また、外部のクラウドサービスやプラットフォームとの連携も積極的に検討し、自社で全てを開発するのではなく、既存の優れたソリューションを柔軟に活用する視点も重要です。
手続きDXを成功させるためのポイント
企業と消費者間の手続きにおいて、いまだに紙の帳票が残るのは、コスト、セキュリティ、デジタルデバイド、法的制約、慣習、システム連携の複雑さといった多岐にわたる障壁が存在するためです。
しかし、これらの障壁は克服不可能なものではありません。
スモールスタート、セキュリティへの投資、デジタルリテラシー教育、法的対応、チェンジマネジメント、UXの最適化、そして既存システムとの連携強化といった多角的なアプローチを通じて、DXを効果的に推進することが可能です。
一方で、高齢者層やデジタル弱者を主要顧客とするサービス、デリケートな内容を含む手続き、物理的な証拠が必要な手続き、災害時の代替手段、そして伝統的な文化に根ざした手続きなど、無理にオンライン化せず、紙での手続きを残しておくべきジャンルも存在します。
全ての業務を画一的にデジタル化するのではなく、それぞれの特性や顧客層、リスクを考慮し、最適な形でハイブリッドな運用を行うことが、これからの企業活動において求められる柔軟性と言えるでしょう。
DXは単なるツールの導入ではなく、企業文化やビジネスモデルそのものを変革する取り組みです。
紙の手続きとデジタル手続きの最適なバランスを見極め、顧客と従業員の双方にとってより良い体験を提供することが、持続可能な企業成長の鍵となるでしょう。
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