フォントの歴史から印刷を見てみよう・欧文編

フォントの歴史から印刷を見てみよう・欧文編アート・クリエイティブ

印刷やDTPにとって切っても切れないものが「フォント」。

皆さんも普段パソコンなどを操作すると「ゴシック体」とか「明朝体」といったフォントを使いますよね。

そんなフォント、実はかなり奥深いんですよ。

フォントの歴史を知れば印刷物や広告の文字がちょっと違った感じで見れるかと思います。

今回はそんなフォントの歴史についてお話しします。

 

”フォント”は印刷とともにできた概念

フォントという言葉は、もともとラテン語で「金属が溶ける」という意味の”Fundere”という単語が語源といわれています。

ちなみに”Fundere”は、チーズフォンデュやオイルフォンデュの”フォンデュ”の語源にもなっているんですよ。[注1]

フォントはもともと、印刷に使われる特定のサイズ・書体の活字一式をさしていました。

しかし自由にサイズや装飾を変えられるコンピュータフォントの登場により、現在ではフォントと書体の定義はほぼ同じものになりました。

 

「フォント」ができる前の書体

活版印刷が発明される前のヨーロッパでは、どのような書体が使われていたのでしょうか。

当時、ヨーロッパでは主に「カロリング小文字体」という書体が使われていました。

「カロリング」とは8~9世紀にヨーロッパ大陸を統治していたカロリング朝のことで、カロリング朝のカール大帝がこの書体をヨーロッパ全体での標準的な書体として普及するためにサポートした背景から来ています。

カロリング小文字体は4世紀に聖職者のヒエロニムスがラテン語訳した聖書の文章を読みやすくする目的で、イタリアで流行したアンシャル文字やイギリスで流行したインシュラー文字など多くの書体の影響を受けてつくられました。

従来の書体に比べ、カロリング小文字体は文字同士を切り離したり、単語と単語の間に余白を入れたりしたことで現代人でも識別しやすくなっています。

その結果、カロリング小文字体は修道院や教会を中心にヨーロッパ全土に広がり、今日の欧文フォントに大きく影響を残しています。[注2][注3]

 

活版印刷とブラックレター体

12世紀ごろから北フランスやドイツで「ブラックレター体」という書体が使われはじめました。

ブラックレター体はカロリング小文字体から派生してできた「テキストゥール」や「フラクトゥール」などといった書体の総称です。

ブラックレター体が登場した背景には、中世後期にヨーロッパ全体で大学が設立されて学問が発展したことが挙げられます。

学術的な書物が作られる中で、より原稿スペースを効率よく筆記するため字体が改良されてできたのがブラックレター体です。

ブラックレター体の特徴はカリグラフィーの字体に影響された太い画線と、詰めて書きやすい縦長のフォルムです。

金属の活版印刷を発明したグーテンベルクはテキストゥールの金属活字を開発し、その後テキストゥールはドイツで第二次大戦期まで使われ続けた「フラクトゥール」などのフォントの基礎となりました。 [注4][注5]

 

ルネサンスとローマン・イタリック体

15世紀になるとルネサンス時代に突入したイタリアで、古代ギリシャ・ローマの文化や学問の研究が盛んになり、ローマ時代の書体を模した新たなフォント「ローマン体」と「イタリック体」が登場します。

イタリアの人文主義者ポッジョ・ブラッチョリーニは、自らが発掘したラテン語の文献に倣った古代ローマ時代の書体を聖書などの写本に利用しました。[注6]

その後、古典ローマの書体を参考にしてフランスの彫刻家ニコラ・ジャンソンがローマン体の活字を、イタリアの活字職人フランチェスコ・グリフォがイタリック体を考案しました。

ローマン体はカロリング小文字体とローマ時代の碑文に刻まれた大文字を組み合わせたもので、画線の端に「セリフ」と呼ばれる小さな飾りがあるのが特徴です。

一方、イタリック体はローマ時代の筆記体を参考にしてつくられ、小文字の画線が「セリフ」のない丸みを帯びた形をしています。[注7]

16世紀にはフランスのデザイナー、クロード・ギャラモンが斜体のイタリック体を考案したことで、現在までイタリック体は斜め文字としてローマン体と併用されるようになります。[注8]

 

商業印刷とモダンセリフ

1734年にイギリスの鍛冶職人兼彫刻家のウィリアム・キャスロンが、オランダで流行していたローマン体をもとに同国で初めての本格的なフォントとなる「オールドスタイル」を考案しました。[注9]

1780年にはフランスの活字デザイナー、フィルミン・ディドーらより「モダンセリフ体」がつくられました。

「オールドスタイル」や「モダンセリフ」は文字の見やすさを追求するため、画線の太さのコントラストを強めて、文字の間隔を広めにとっています。[注10]

1816年ごろにはイギリスのウィリアム・キャスロン4世により、画線の太さのコントラストやセリフの飾りを排除したシンプルな「サンセリフ体」を開発しました。

サンセリフ体はそのエキゾチックな印象から、人々に「エジプシャン」などと呼ばれました。

太くはっきりした字体は遠くからでも識別しやすく、当時商業の発達とともに増加していた大型広告やポスターに多用されています。[注11]

 

職業デザイナーとデジタルフォント

20世紀になると“Goudy Old Style”などで知られるアメリカのフレデリック・ガウディ、”Helvetica”などで知られるスイスのマックス・ミーディンガー、”Frutiger”などで知られるスイスのアドリアン・フルティガーなど、フォント専門の製作デザイナーが登場しました。

また1950年代にアメリカで写植機が発明されると、OCR(光学的な文字の認識)に特化したフォントが作られ、中でも写植のために開発されたサンセリフ体のフォント”Univers”は、現在でも世界中で活用されています。

さらに1980年代になるとコンピュータが発売されて、アドビ社などコンピュータ用のフォントを取り扱う企業が登場しました。

コンピュータ用のフォントの多くはウィリアム・キャスロンやアドリアン・フルティガーなどかつての活字やフォントのデザイナーが開発したものをベースにつくられており、現”Garamond”や”Bodoni”などデザイナーの名前を冠したコンピュータフォントもたくさんリリースされています。

 

まとめ

今回はフォントの歴史をまとめてみました。

あれこれ話したらかなりボリュームが長くなってしまいましたが、それだけフォントが人々の間で長く利用されてきたんだといえます。

特徴も成り立ちも違うたくさんのフォント、皆さんも目的にあわせて使い分けてみてくださいね。

 

関連リンク

[注1] Etymonline :Font
[注2] Ad fontes :Caroline Minuscule
[注3] Dartmouth Ancient Books Lab :Carolingian miniscule
[注4] Fontfablic :The Hidden Story of Gutenberg’s First Typeface and Bible Typography
[注5] Jake Rainis :The History of Blackletter Calligraphy
[注6] I love typography :The First Roman Fonts
[注7] Designers :Lines of Communication – A Typeface History
[注8] LUC DEVROYE :William Caslon
[注9] The Met :Firmin-Didot: A French Legacy
[注10] HistoryofInformation.com :“Caslon Egyptian”
[注11] 99Designs :Digital Fonts: A condensed history

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