校正者に必要なスキルって何?

校正者に必要なスキルって何?アート・クリエイティブ

印刷業界において縁の下の力持ちとして活躍している校正者。

あまり華やかなイメージとは縁遠そうな職業かもしれませんが、校正者がいなければ誤字脱字や誤った表記で掲載された印刷物が出回ってしまい、多くの人が間違った情報を認識してトラブルが起こる可能性が考えられます。

校正者は印刷する内容を細かく確認することで、こんな情報のパニックが起こらないよう未然に防いでいるのです。

そう言われると、どことなくかっこよく見えてきますよね。

今回はそんな校正者にはどんなスキルが求められているのかまとめました。

あくまで個人的な見解ではありますが、校正者として自ら何が必要なのか考えてみましたので、ぜひご覧ください。

校正者に求められる「学力的スキル」

言葉を正確に使いこなせる力

「てにをは」など助詞の使い分け

日本語には「て」「に」「を」「は」など数多くの助詞があり、助詞の一文字が変わるだけで文章全体の意味が大きく変わることがあります。

「彼は本を買った。」 → 「彼に本を買った。」

上記の場合、左右で本を買った人物は変わっていますよね。

たった一文字の違いですが、誤った助詞が入ることで前後の文脈をとらえる上で大きな支障となってしまうリスクがあります。

説明書の表記でむちゃくちゃに助詞が使われていたら、ユーザーが誤認してしまいミスを起こしてしまう可能性が高いですよね。

基本的な文法項目だからこそ、漏れのないよう徹底して確認するよう心がけています。

漢字の閉じ開き

日本語には同じ読みや意味の語彙でも、「優しい心」と「やさしいこころ」というようにひらがなと漢字で表記を使い分けるものがあります。

校正の現場では語句を漢字からひらがなへ表記を変える作業を「漢字を開く」、その反対を「漢字に閉じる」と呼んでいます。

漢字の開き閉じをおこなう理由としては、単純に一行あたりの文字数を調節して文章の見た目を整える以外にも、文章の誤認を少しでも減らすことが挙げられます。

「その日、彼は大阪に行って講演を行った。」

上記の文では「大阪に行く」も「講演を行う」も「行」の字が使われており、誤読が生じやすいです。

このリスクを避けるために「いって」「おこなった」というように漢字を開くこともあります。

ほかにも「~してくる」「~してみる」といった補助動詞や「~してほしい」「~していない」といった補助形容詞も手前の動詞とつながっていることを表すため、ひらがなで表記します。

漢字の正確な使い分け

2023年8月現在、パソコンで表せる漢字は全部で7万種類以上あります。

膨大な種類の中には意味が似ていてややこしいものも少なくありません。

同音異義語「意志」と「意思」、「回答」と「解答」、「鑑賞」と「観賞」など
同訓異字「直す」と「治す」、「見る」と「診る」、「早い」と「速い」など
同じ字の新旧字体「辺」と「邊」、「国」と「國」、「庁」と「廳」など

こうした似たような字・熟語を前後の文脈や固有名詞の正しい表記にあわせて使い分けることも校正の作業の一つです。

また漢字には学校で習う常用漢字とそれ以外の表外漢字があり、場合によって地名や人名などの固有名詞以外は表外漢字を表記しないこともよくあります。

例えば拉致という単語はかつて「ら致」と表記されることが多かったのですが、2010年に拉という字が常用漢字になってからは原則的に「拉致」と表記されるようになっています。

また「ワタナベ」「サイトウ」「タカハシ」のように表記のパターンが多数ある名字は、正しく記載して当人に失礼のないようにしないといけません。

不適切な表現の削除・差し替え

客観的に見て差別的な表現はないかチェックするのも校正の大事な作業の一つ。

コンプライアンスによる規制が厳しくなってきた今、以下の事項には特に配慮が必要です。

  • 性差別
  • 人種差別、民族差別
  • 地域差別
  • 被差別集落への差別
  • 宗教への差別
  • 病人や障害者への差別
  • 特定の職業への差別

近年、著名人が上記に関する不用意な発言をしてしまいネットニュースになった事例もよく見かけるかと思います。

例え「女三人寄れば姦しい」のように昔から使われていた言葉でも、今の観点から見て差別につながりそうなものは表現を変えてもらわないといけません。

こうした表現が原稿の中にある場合、執筆者に今後文章を書く際気を付けてもらうためどの部分がどういう理由で不適切なので直してほしいときちんと説明する必要があります。

また文章に欧文が入っている場合は、スペルミスの確認や途中で改行された英単語へのハイフンの挿入(ハイフネーション)も行う必要があります。

見やすいレイアウトに組版する力

組版とは原稿のレイアウトに沿って、文字組みや図形・画像などを刷版に配置していくことを指します。

執筆者から原稿データをいただいた時に、ルビや脚注などが正しく文章に連携されて記載されているか、原稿に挿入してある図表や画像のサイズが適切かどうかなど以下の項目を中心に確認していきます。

  • 文章のフォント
  • 文章のサイズ(ポイント・級数)
  • 文章のルビ
  • 文章の字間や行間の幅
  • 文字や図形の色彩設定
  • 画像の種類や位置
  • 脚注や解説文の種類
  • グラフの種類・数値
    など

またポスター、チラシ、説明書、文庫本など印刷物の種類によって紙面に入れるべき適切な情報量が変わります。

ターゲットにストレスなく情報を読み取ってもらえるよう、文章に装飾を入れてメリハリをつけたり余白部分を適宜デザインに入れたりして最終的な刷版のレイアウトを決めていきます。

校正者に求められる「能力的スキル」

長時間細かく確認できる集中力

校正の作業では大量の原稿データを隅から隅まで細かく確認するため、長時間ひたすら作業に打ち込める集中力が求められます。

ただでさえ無数にある文章から誤字や脱字を発見するのは根気のいる作業なので、飽きっぽい人は少し作業するだけでもきつく感じるかもしれません。

普段からパズルや読書を黙々と楽しめる人なら、校正に向いているかもしれません。

些細な違和感にいち早く気付ける力

校正者だからといって、学者クラスの日本語の知識がないといけないわけではありません。

どちらかといえば、「表現としては正しいが前後の文脈と内容が矛盾している」というように、文章の誤りや修正すべき点を敏感に察知できることが必要です。

また専門的な内容でも本当に事実と合っているか、細かく疑って一つ一つ調べてみる姿勢も求められます。

長時間作業をおこなえる体力

校正の作業では、執筆者が書いた原稿データを校正者がチェックして執筆者に訂正したのち再提出してもらう…という流れが何度も起こります。

作業時間も長引きやすく残業が発生することも少なくないため、ずっと作業してもバテない持久力があれば申し分ないです。

その他にもビジネス、プライベート関係なく人生経験が豊富な人のほうが、様々な校正の案件に対してより柔軟な発想で対処できると感じます。

まあこれは校正に限らず多くの仕事において言えることかもしれませんね。

まとめ

校正者は向き・不向きが大きい仕事

校正者の仕事は表現に誤りがないか、より的確な言い回しがないか、見やすいレイアウトになっているかなど、様々な観点から原稿データを細かく確認して修正内容の有無を特定することです。

いわば文章の間違い探しを大量に行うようなものなので、一つのことに集中して取り組めるだけの集中力や持続力がある人が校正の仕事に向いています。

また印刷物によってもどう表記するべきかは細かく違ってくるため、作業経験を通じて一つ一つの表現が本当に適切か疑いながら臨機応変に対処するスキルを向上させることができれば理想的です。

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